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映画レビュー① 『ナイトクローラー』 ネタバレあり

『ナイトクローラー』(Nightcrawler)
監督・脚本:ダン・ギルロイ

出演者:ジェイク・ジレンホール、レネ・ルッソ、リズ・アーメッド、ビル・パクストン

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あらすじ:貧乏で職なしコソ泥人間が、犯罪や事故の現場を撮影しテレビ局に売り込む仕事に出会う。持ち前の非情さと機転の良さを活かして非道徳的な手段でいくつもスクープを掴み出世していく話。

 

 

非道徳を肯定してしまう社会の仕組みと、そこに付け込むサイコパスの物語

主人公の特徴

・人当たりの良い笑顔とトーク。

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・頭が良く機転が回る。自分を売り込む文句もスラスラ。

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・利益のためなら眉ひとつ動かさず平然と不法侵入や信号無視など犯罪を犯すし、道徳を踏みにじって他人を犠牲にする。高く売れる映像を撮る為だったら死体だって勝手に動かすし部下も死なせる。

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これらの特徴から主人公は明らかなサイコパス

サイコパスってなに?って人へ、僕の考えるサイコパスの定義と合ってるものをまとめたサイトがあったので貼っておきます。

サイコパスとは何か?-私たちが知っておくべき善意を持たない人々- | 私たちはどんな悪人にも少しくらいは良心を持っているだろうと信じていると思います。しかし、世の中にはそんな考え方が全く通用しないサイコパスと呼ばれる人間が存在しているのです。 

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主演ジェイク・ギレンホールのこのギョロ目が怖いのなんの。

 

 

この作品の面白いところは、ただ恐ろしいサイコパスを見せて怖がらせるだけではありません。恐ろしい社会の仕組みが身近にある怖さと、そんな身近に居場所を見つけたサイコパスの怖さを映してる点だと思います。

主人公は、『羊たちの沈黙』のレクター博士みたいに人間の内臓を食べて投獄されてる訳でも、『SAW』のジグソウみたいに人を閉じ込めて狂気的なゲームを始める訳でもない。他人の真似をしてスクープ映像を撮って、映像を欲しがるテレビ局に売り、お金をたくさん貰えてニッコリし、実際に放送される自分の撮った映像を見てまたニッコリ。視聴者は過激な映像でニッコリするし、視聴率が上がってテレビ局だってニッコリ。

社会の一部として需要と供給があり、身近な存在でもある報道業界という場に潜むサイコパスは、常識離れしたサイコパスたちとはまた違った怖さがあります。社会の仕組みそのものがサイコパスに活躍の場を与えてしまったという感じ。

良心に従って考えれば、視聴者が過激な映像で喜ぶこともテレビ局がその需要に応えようと過激な映像を買うこともおかしい訳ですが、社会の仕組みとして許容されてしまっている。だから過激な映像を撮る職業が生まれてしまうのも仕方ないのです。資本主義ってこわい。

現実に、過激な報道に一瞬でも目を奪われたことがある人は大勢いるはずです。過激な映像を求める気持ちを秘めてる人はたくさんいるはず。そんな自分を顧みてしまうと、良心に基づいてこの社会の仕組みを批判できる人間はそう多くないはずなのです。そういう人たちは、この社会の仕組みを身近な存在と認めざるを得ない。その点が、この映画を「ただのフィクション映画だ」と対岸の出来事で終わらせない、身近な恐怖として感じさせる所以です。

 

主人公が元々まともな人間なら、過激な映像を撮ることで儲かってしまうという社会の仕組みのせいで犯罪者・非道徳者になっていってしまう悲しい物語だったんですが、この主人公ならこの仕事に出会わなくてもどっか別のとこで非道徳的に活躍してたでしょうね・・・最初はコソ泥だった訳だし。

 

ぱっと見だとサイコパスが出世するハッピー?エンド、見方を変えれば順風満帆なサイコパスの破滅の始まりを匂わせるバッド?エンド

最後にはあまりに過激な手段を用いたせいで警察に目を付けられ事情聴取をされる主人公(利益を求めて犯罪に手を出してボロを出すあたりもサイコパス。序盤でも捕まりかけてたしね)。

取調室の監視カメラを見てワイドアングルだとウンチクを垂らす余裕ぶり。飄々と嘘を吐きごまかそうとするけど、警察はそんな言葉を信じず疑惑の思いで胸いっぱい。それでも証拠がないから主人公は堂々とした態度。部下の死体まで撮るなんて!と激昂する警察に対して「それが僕の仕事だ。人の破滅の瞬間に僕は顔を出す」と言ってのける主人公。画面はその瞬間だけ監視カメラから見た主人公を映している(ここ重要)。

聴取を終え外に出た主人公は、警察に目を付けられるほどの過激な手段で得た儲けを使って会社を作り報道車2台と新人部下3人をゲット。目をキラキラさせる部下たちに対し「最初は研修期間だから正社員を目指して頑張ってくれ。成功の秘訣は指示に忠実に従うこと。時には不安に思うことがあるだろうけど、僕がしないような危ないことは君らにやらせない」と激励を送る。前の部下に対する扱いを踏まえると、研修期間中の給料は無しor激安だし指示は人を人と思ってないような無茶振り。最後の言葉なんて、銃を持った犯罪者の目の前に部下を騙して誘導し部下が撃ち殺される映像を撮った人の言う言葉じゃない。完全にブラック企業そのもの。主人公と部下たちが車に乗り込み夜の街に消えていくシーンでエンディング。

 

外道な主人公が人生において成功して、これからも成功し続けるだろうと匂わせて終わるすごく胸糞の悪い終わり方です。こういう胸糞の悪さ大好き。

 

でも、「もしかしたらこのあと主人公の転落人生が始まるんじゃないか」と思わせる演出がありました。

それは取調室で「人の破滅の瞬間に僕は顔を出す」と言う主人公を監視カメラの映像から見せているシーン。

作中において、カメラに映される映像は人が事故で大怪我したり犯罪に巻き込まれて死んだりするものばかり。まさに主人公が言ってるように「人の破滅の瞬間」。

主人公は作中最後の仕事によって警察に目を付けられています。これまで通りに、より過激な仕事をしていこうとすればすぐ疑われて今度こそ証拠を掴まれて逮捕されてしまうでしょう。

カメラに映された主人公というシーンは、警察に目を付けられた時点で主人公にとっての破滅が始まっていることを暗示していたのではないかなと思います。

主人公の破滅の瞬間に、主人公は顔を出している訳です。

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